8月下旬の今日、最高気温は21度、最低気温は14度と、酷暑の日本からすればうそのような
さわやかさです。
予報で雨の今日は気温が低め、でも晴れた日でも最高温度は26度ほどです。
このように過ごしやすいパリの夏ですが、日本で生まれ育ち、フランスの夏の短さも知った今は、
秋模様の8月後半はすこしさびしい気がしています。
6月、7月のコラムは南仏サントロペの海辺のパーティについて書きました。
今月は南仏プロヴァンスと、サントロペへと旅行に出かけたのですが、その時の写真と一緒に、
山羊のチーズ、シェーブルについてお伝えします。
咲き誇る夾竹桃の花
シェーブルの歴史
シェーブルはフランス各地で作られていますが、多くの(*1)AOC-AOPの呼称を持つシェーブルが
ロワール河流域で作られており、この地域がフランスでのシェーブル発祥地のようです。
アラビア半島から北アフリカ、そして、現在のスペイン南部に進軍していたアラブ系のサラセン人が
フランス北部まで勢力を伸ばしていた8世紀。
そのサラセン人が732年ついにフランス勢力にトゥール・ポワティエ間の戦いで敗れました。
敗走するサラセン兵たちは連れてきていた家畜の山羊を置いて行き、シェーブルのチーズの製法も
残されました。
このシェーブルはフランス語で山羊や山羊のチーズの意味ですが、もともとはアラビア語の
「シャビ」(山羊の意味)が語源だそうです。
シェーブルの旬
母山羊は5ヶ月の妊娠期間を経て、初春に子供を生み、夏頃までお乳をだします。
免疫を付けるため初乳を子山羊に飲ませてから、人間がチーズを作るのにいただくそうです。
今はお乳を冷凍して使う技術があるため、店頭には一年中シェーブルがあります。
しかし何でも旬のものがおいしいのはシェーブルにもあてはまり、春から秋口までがおいしくなります。
柔らかい春の草花を食べた山羊のお乳で作っているのだなと思うと、初夏から夏にかけてシェーブル
ばかりが目に付いてしまいます。
フェルミエ(農家製)、レ・クリュ(生乳)、AOC-AOPなどと品書きに書いてあると、もう試さずには
いられません。
一頭の雌山羊から一日一リットルほどしか搾乳できないそうで、製法のせいもあり、一般にシェーブルは
小さいものが多く、そして重さあたりの値段は牛乳のチーズに比べて高いようです。
サントロペのマルシェで見かけた地元農家製シェーブル
プロヴァンスの日時計 コティニャックにて
シェーブルの味、見た目や食感
このシェーブル、外見は白いもの、灰や木炭粉がまぶしてあって青黒いもの、黄色がかったベージュ、
またハーブがのせてあったり、栗の葉で包まれていたりとバラエティー豊かです。
しかし見た目が牛乳のチーズと違うのは、山羊のチーズは切ると中が真っ白です。
食べ物(草)のカロチンが牛はお乳にでますが、山羊は出ないのでチーズが真っ白なのだと、
以前参加したチーズセミナーで教わりました。
シェーブルは熟成期間も短く、あっさりしていて、少し酸味があって、後味はミルクの淡く甘い味がする
というのが全体的な印象です。
舌触りはなめらかなもの、粘土みたいな感触のもの、ぽそっとしたものと種類や熟成の仕方で
変わるようです。
シェーブルも種類が多く、私が食べたものなど、まだまだほんの一部でしかありませんが、
個人的にはシェーブルのあっさりした風味が気に入っています。
この軽さ、酸味、ほのかな甘みが、冷やした白やロゼや軽い赤ワインとの食事ともとっても合うと
思われているのでしょう。
あっさりして酸味のあるシェーブルは、クリーミーな牛乳チーズを食べたくならない夏の日の食事に
向いていると思います。
噴水と木陰が一服の涼を与えてくれる プロヴァンス セニョンにて
ちなみに山羊乳の匂いから山羊のチーズも敬遠される方が多いと聞きます。
山羊乳は確かに匂いを吸着する性質があるそうで、搾乳したら、ミルクを牧舎からすぐに出したり、
飲用乳だと沸騰しない程度に温めて殺菌後、冷蔵庫で冷やしてにおいを取ったりと酪農家も
工夫されているようです。
けれども、この「Goaty Flavor」ゴーティフレーバー=山羊の風味はカプリン酸という中鎖脂肪酸と
関連があり、燃焼効率がよく中性脂肪にならずに分解される中鎖脂肪酸は、ダイエット効果が
証明されているそうです。
また山羊のお乳には生活習慣病の予防、血圧を下げる働きなどで注目されるタウリンが豊富に
(牛乳の約20倍)含まれています。
参考サイト:
全国山羊ネットワーク - http://www.japangoat.net/
社団法人畜産技術協会 - http://jlta.lin.gr.jp/kokunai/houkoku_jigyo/h11_01y_03.html
その他
いろんなシェーブル
写真とともに、シェーブルをいくつか紹介します。
時計回り左下から| 種類: | シェーブル |
| 産地: | ロワール河流域をはじめフランス各地 (写真のものは産地を聞きそびれました) |
| 原料乳: | 山羊乳 |
| 固形分中乳脂肪: | 45%程度 |
熟成はしないで、作ってすぐ売られる。
酸味のあとにほのかな甘みがある。
デザートやおやつに、はちみつをつけて食べてもおいしい。
| 種類: | シェーブル |
| 産地: | ロワール河 ベリー地方 |
| 原料乳: | 山羊乳(無殺菌乳) |
| 固形分中乳脂肪: | 最低45% |
| 熟成期間: | 15日間 |
| サイズと重さ: | 直径8cm 高さ2-3cm 200g(熟成後150g) |
フェルミエ(農家)もしくは酪農場製
木炭粉と塩をまぜたものがまぶされていて、青黒い。
口当たりはしっかりしているのに、咀嚼するにつれて口のなかでとけるような食感。
| 種類: | シェーブル |
| 産地: | ロワール河流域 ポワトゥ地方 |
| 原料乳: | 山羊乳(無殺菌乳) |
| 固形分中乳脂肪: | 45% |
| 熟成期間: | 3週間 |
| サイズと重さ: | 直径10cm 高さ3cm 250g |
フェルミエ(農家)製
熟成期間の間、栗の葉が湿度を程よくコントロールする。
うまみがあって、味のバランスもよく、大変おいしいチーズでした。
写真手前| 種類: | シェーブル |
| 産地: | ロワール河流域 ベリー地方 |
| 原料乳: | 山羊乳 |
| 固形分中乳脂肪: | 最低45% |
| 熟成期間: | 3週間 |
| サイズと重さ: | 6-7cm角 3.5-4cm上辺角 高さ6-7cm 200-250g |
エジプト遠征に失敗したナポレオンが、フランス帰征の時にヴァランセー城でこのチーズを
出されたそうです。
そのピラミッド型が気に食わなかったナポレオンが、剣で上を切り取ったため、この形になった
といういわれがあるそうです。
写真右下| 種類: | シェーブル |
| 産地: | プロヴァンス地方 |
| 原料乳: | 山羊乳(無殺菌乳) |
| 固形分中乳脂肪: | 45% |
| 熟成期間: | 4週間 |
| サイズと重さ: | 直径6-7cm 高さ2.5-3cm 90-120g |
写真のものはフェルミエ(農家)製 酪農場製もある
秋に木からむしった栗の葉で包まれて、ラフィアがかけられている。
ブランデーかその他の蒸留酒を噴射した後、葉に包まれる。
葉っぱの香りがチーズに独特の風味を与えている。
熟成が進むするにしたがって、とろりとクリーミーになる。
ラヴェンダー畑が広がる
チーズ日記とチーズ図鑑
チーズはフランスに住んでから日常的に食べるようになりました。
食べているだけでは、名前や特徴を忘れてしまうので、近頃はチーズ日記も時々書いています。
日記を書くというのはチーズを非常によく知る友人が教えてくれたやり方で、チーズに貼ってある
シールを日記に貼るのもよし、レシートを貼るのも値段が分かっていいそうですが、基本はチーズの
出た食事の後、忘れないうちにノートに書くという習慣をつけること。
そうするとチーズの味と名前の記憶が残るそうです。
これが食事の後というのは、主婦にとっては台所の片付けや子供の就寝の用意があって忙しく、
種類を食べている割に日記ページ数は増えず、味の記憶もすぐに忘却の彼方へ。
またチーズの図鑑もチーズの名前や姿を覚えるのに役に立ちます。
チーズに関して専門家でない素人の私がチーズについて書く時は、この3冊のチーズの図鑑を毎回
参考にしています。
フランスという国や、フランス文化の全体像は住んでいるだけではなかなか把握できないのですが、
チーズという切り口からフランスの食文化、歴史、地理などがだんだんと見えてくる過程を楽しんでいます。
1. Guide du fromage Choisir, reconnaitre, gouter 1200 fromages du monde
Roland Barthelemy, Arnaud Sperat-Czar著 出版社HACHETTE Pratique
2. French Cheeses The visual guide to more than 350 cheeses from every region of France
Kazuko Masui, Tomoko Yamada著 出版社Dorling Kindersley
チーズ図鑑 文藝春秋編 増井和子・山田友子著 の英訳版
3. Guide des fromages Payen/Barberousse/He著 出版社Milan
脚注:
(*1)AOP=原産地保護呼称
AOPとはApellation d'Origine Protegeeアペラシン・ドリジン・プロテジェの略
AOC統制原産地呼称という伝統的製法で作られた高品質の食料品を広く一般の消費者に知って
もらうために作られたフランスの制度のEU版と言ってもよいもので、基本的に同じ役目を果たす。
AOPはEU委員会が定めるEU各国においての認証制度。
フランスでのAOC表示は今後EUのAOP表示に変わってゆきます。
筆者:五条 ミショノウ さやか
パリ在住6年の翻訳者、ライター、コーディネーター
米、英国での留学、生活を経て、渡仏。仏人夫、子二人、犬一頭と暮らす。
email: sayaka.michonneau@gmail.com